第2章 事件の方向
 
 
 緑樹が出した手紙は三日後、友人の心に心配を起こさせた。
 手紙には、賢人の華の都で起きている事件について細かく書かれてあった。
 友人はしばしの間、文面を見つめ考えていた。どうするべきか、と。友人もまた緑樹と同じものを感じていた。そして考えの結果、現場に行くことにした。見てみなければ分からないためそうすることにした。とは言っても、すぐに目的地に着くことはできない。数日は船の上で過ごさなければならない。友人はすぐに準備をし、この日の内に出発した。旅に向かない体に鞭打って。
 
 遠い人の国に手紙が着いていた頃、差出人は君の屋敷を朝の時間を過ごしていた。
「事件の初めよりひどくなってるよね」
 緑樹は向かい側の君と隣の焔に言った。
「あぁ、そうだな」
 うなずき、菓子を放り込む。
 君と焔と話してから三日後の今では、事件発生時よりひどいことになっていた。
 荒らされていない墓場の方が少なくなってしまった。人々は恐ろしくなり葬式は行っても埋葬を先送りにする人、火葬にする人が増えた。賢人総会では墓場の見回りということなったが、犯人を目撃することがなく、何も成果が無かった。
「焔と一緒に夜、行ったけど何もなかった」
 三日前、焔と共に夜の墓場に行ったのだが、何もなく時間が無駄に過ぎただけだった。
「そうだよなぁ。他の墓場が荒らされてよぉ」
 焔は菓子を頬ばりながら肩をすくめた。
「二人共、好奇心旺盛なんだよ。もう少し待ったら詳しいこと分かるんだから」
 二人の行動力に呆れながらこれ以上のことをしないように止める緑樹。彼はもう誰が犯人なのかを確信している。
「お前、何か知っているのか?」
 あまりにもあっさりした言葉に何かを感じた焔は訊ねた。
「まぁ、知っていると言えば知っているかな。でも僕の考えが正しいかどうかは分からないんだ。今、調べてもらってる途中だから」
 手紙のことが頭に浮かぶが、言葉を濁した。
「お前の考えって何だよ? それぐらい教えてくれてもいいじゃねぇか?」
 濁されたことを訊ねるが、緑樹は肩をすくめるばかり。
 その様子を見て、
「もしかして以前、君が言ってた事件と似てるということじゃない?」
 君は何気にそんなことを言う。ふと、そのことが思い出され、口に出たのだった。
「その通りだよ。でも詳しいことはまた今度で」
 少し険しい顔になるがすぐに元の顔に戻る。
「今度か。絶対に話せよ」
 緑樹に念を押すように言う。気になって仕方がないらしい。
「分かってるよ、焔」
 緑樹は焔を宥めるように言う。約束を守らないと大変なことになりそうだ。焔の顔がそう言っている。
「それにしても当分の間、事件も収まりそうにないね。墓場はまだいくつかあるし」
 こともなげに言ってしまう。それほど君は深刻に考えてはいないらしい。というか何とかなると考えているようだ。
「その通り。まだ事件は終わらないんだよ。つまり、まだ解決はできるってことさ。何とかなるよ。さてと」
 言うだけ言った後、緑樹は立ち上がり、
「それじゃ、僕はもう帰るよ」
 別れを言い、さっさと出て行った。
「絶対に前話してくれなかった事件と関係があるな」
 焔は緑樹の消えた扉を見つめ、ぼそりと呟いた。
「僕もそう思うよ。きっと近いうちに分かるよ」
 君も扉の方を見て確信めいたことを言った。
 
 この後、二人の予想は見事に的中し、大変なことになるが、今は警戒はするが過ごす時間はゆっくりとする。
 大変な時は望まなくても来るのだからゆっくりできるうちにゆっくりする方がいい。