第2章 青の夢
 
 
 深い森に包まれた丸太小屋。そこの住人はいつものように飲み物をカップに注ぎ、一人の時間を楽しんでいた。
「……こういう家もいいかな。今度は豪華な家にしようかな」
と家の主は呟き、満足そうに周りを眺めていた。
 主の名はケイ。12歳ぐらいの外見にゆったりとした紺の服を纏い、髪はだんごや三つ編みでめちゃめちゃにまとめている。この者を知る者は夢の人と呼ぶ。
 喉を潤しながら、
「……ここは落ち着くなぁ。この世界こそケイのいるべき場所」
 ほぅと安心の息を吐きながら呟いた。
 ケイが住んでいる地はもう少しにぎやかな所。こことは別の所にある。
 ここは眠りの世界。いわゆる夢なのである。この者にとって夢は現実、目覚めの世界は夢なのだ。
「さてと散歩にでも行こうかな」
 立ち上がり、外に出掛ける。
 
 外は清々しく心地良い風が頬を撫でる。空には白い雲が泳いでいる。
「今日はどうしようかなぁ」
 伸びをしながら歩いているケイ。気ままな散歩。
 突然歩む足を止め、
「……!?」
 道の先を訝しげに睨む。
「……来る。……ボクの夢に一体」
 その呟きは道の先に現れた激しく発光する青い光によって消された。
 
 青い光が持って来たものは青色の街だった。
「……青い街。うわぁ」
 辺りを見回してから上を向いて驚いた。様々な家や店らしきものが並ぶのは普通だが、空があると思われる所では下半身が魚のヒレになっている人々が楽しそうに泳いでいるのだ。さすがに夢の中である。
「……ん?」
 何かが聞こえた気がし、耳を澄ます。
 耳に入ってきたのは寂しくも美しい音色。
「どこから」
 どこから聞こえてくるのか探ろうと耳を傾けるが、あらゆる所から聞こえているようなきがしてはっきりとしない。
「……歩いてみよう」
 とりあえず街の様子を知るために歩くことにした。
 街の様子は取り立てておかしなところは何もなかった。夢の中という意外は。 
 
「ここからだったら街が見下ろせるだろうな」
 街の様子を一通り眺め終えたケイが辿り着いた場所は街を見下ろすことができる丘だった。
「……誰かいる」
 目の先に座って街を見下ろしているであろう子供がいた。経験からこの夢の重要な人物だと感じたケイは急いで側に行った。
「……ここの人?」
 いきなり訊ねる。
 その人物は15歳ぐらいの外見に茶色の髪に深い緑の瞳をした少女だった。秘石らしき石がついたペンダントが胸元に輝いている。服装は旅人のような動きやすく簡素な物を着込んでいた。
 彼女はケイに答えない。
「ねぇ」
 話しかけるが、返答はない。しかし、彼女の口は小さく動いている。
「……?」
 ケイは黙り、耳を鋭くすると彼女の口から小さな言葉が洩れていることに気づいた。
「それは」
 彼女の口から洩れていたのは街で耳にした歌だった。
「君が歌っていたんだね。もしかしてこの夢を見ている人?」
 再び訊ねるが、答えはない。
「……困ったなぁ」
 ため息をつき、少女を見つめる。会話の糸口が思いつかない。
「ねぇ」
 方法が思いつかないためまた話しかけてみると今度は少女の姿が消えてしまった。
「どういう」
 驚き、少女がいた場所から周囲へと目を動かす。どんどんと景色が薄れ消えていく。
「……ボクの夢」
 変化が収まり、ケイが立っていたのは青い空の下だった。
 時々吹く風が心地よい自分の夢だった。
「戻ったということかなぁ。あんなことほとんどない。見ている人に何か起きてるってことかな。だとしても」
 無事に帰還できたことへの喜びよりもあの少女のことが気になる。何か大変なことが起きているような気がしてならない。そして、それを何とかするには自分だけでは力不足であることも感じている。
「……ハカセに会いに行こう」
 ケイは最も頼りになる人物の所へ向かった。
 きっと何とかしてくれると信じて。
 
 ちょうど上古の探索者が賢人の都での再会を迎えた時だった。