第9章 太古の森への道
   
 
 北の方へ北の方へと進路を進めてから随分、経つ。
 森に会う度に大賢者ローズはニコルの教えの通りにやっていく。それによって様々な情報を得る。
 その中でも今回、会おうとしている森は……。
 
 北に向かえば向かうほど大地は荒涼としており、森は頑固さを増す。
 ある森に足を踏み入れた途端、ローズの体は硬直した。
「……呪いの言の葉。……私は大賢者ローズ! 森を荒らしに来たわけじゃない!!」
 朗々と言葉を響かせるが、返答は無い。
「……だったら」
 そう言うなり大賢者は、呪いを解く解呪の言葉を呟き、体の自由を取り戻す。
「……ここの長に会わせてくれたらすぐに帰るから。私はただ太古の森を知りたいだけ!」
 もう一度、大声で自分の意志を伝えてから奥へと進み出す。
 呪いが彼女の身を襲うことはなかった。森は彼女を許したのか、それとも何かを企んでいるのか。それは分からないが、静かにはなった。
 
「……不気味なほど静かねぇ」
 深い緑を見回しながら一歩一歩、歩いて行くローズ。
 道は確実に変わり、進んでいる。
 しばらく歩くと開けた場所に出た。真ん中に巨木が一本立っていた。
 今までにない深い緑。大振りな枝。おそらくこの森の長老だろう。
(……あなたがこの森の長ですね。私は大賢者ローズ。上古の探索者です。太古の森を探しています。何か知っているのなら教えて下さい)
 真摯な瞳を長に向け、声に出さない言葉を目の前の木に伝える。
 ずっしりと重い声がローズの心に響く。
(……何のために求めるのか?)
 その声に答えるべく言葉を返す。
(世界の中心に行くため)
(それがこの世にあると信じているのか?)
 ローズにとって妙な質問をする。
(そうです。だからこうして探索の道を歩いているのです)
 分かりきったことのように言う。
(……ならば、教えよう。太古の森を。この森を抜け、ただまっすぐに進めばよい。さすれば、洞窟のようなものが見えよう。そこに入ればお主の求める物はあろう)
 静かに言う。
「……洞窟」
 森とどうつながりがあるのか小首を傾げ思わず声に出してしまった。
(……ありがとうございます。……全てが終わった時、また必ず来ます)
(……また来る? 何しに来るのだ?)
(……お礼をしに来ます。全てを終えることこそが、私にできることで皆様方の思いに応えることのできる唯一の示し方ですから)
 ときっぱりと言う。
(……全てを終えることか。……待っていよう。お主の全てを終えた姿を見よう)
 長は重く答えた。
 ローズは巨木に微笑み、ここを後にする。
 
 森達の親切のおかげですぐに森を抜けることができ、荒涼とした大地に立つことができた。殺風景で心が乾燥しそうな大地。しかし、ローズの心には太古の森へ向かうという潤いがある。
「……さぁ、あと一踏ん張りね」
 意気込みを入れ、歩いて行く。
 この先に何が待っているのかは分からないが、そこへ行くことが今のローズにできることであり、しないといけないことなのだ。彼女は行く。