第4章 魔女の報告
 
 
 魔女は楽しい遊びを終えた翌朝、偉大な呪術師の屋敷を訪問し、図々しく居間に入り込んでいた。
「それでどうしたんですか。歪みの者にでも会ったのですか」
 喉を潤してからいつものように不機嫌そうに訊ねた。
「さすが、あなたね。会ったわ。夢だからとても楽しかったわぁ」
 嬉しそうに答え、お菓子を頬ばった。
「……あなたは」
 カップをテーブルのソーサーに置きながら、向かいに座る彼女にため息をついた。
 詳細を聞かなくても分かる。彼女が何をしたのかは。
「今頃どうしてるかしらねぇ。生死は分からないけど生きていたらまた楽しめるわ」
 口元に邪悪な笑みを浮かべる。脳裏には歪んだ少年の顔が浮かんでいる。昨日からずっと思い出しては笑っている。
「本当に嫌な性格をしていますよね」
「あら、褒めてくれてるのかしら」
 偉大な呪術師の呆れも軽く流してしまう。
「それでどうだったのですか」
 どのようなことが繰り広げられたかはどうでもいいので聞かず、事件解決の案配を訊ねた。
「手応えがあったような無かったような感じで存在自体が疑問よねぇ。大賢者君が言ってるように」
 歪みの者を自身の夢から消し去ったのは事実だが、存在に影響を与えているかは分からない。ただ、彼女が感じたのは思ったほど遊べなかったことだけ。まだ色違いの目をした子猫の時の方が遊べた気がしてならない。
「そうですか。夢だけの存在なのか誰かが見ているのかまた別の存在なのか」
 君の手紙を思い出し、言葉にする。
 偉大な呪術師自身も分からない。もしかしたら歪みの者に会っていたら何か分かっていたかもしれないが。
「あたしはどれでもいいけど、楽しければ。それよりあなたはどう思ってるのかしら」
 肩をすくめながらいつものように答える。
「分かりません。ただ、分かるのはいつも平和ではないということぐらいです」
 今までのことを思い返していた。違い目の民、死人使い、歪みの者に思い出せばまだたくさんある。そこから考えることができるのは平和は存在しないということ。
「そうねぇ。もしかしたらまた誰かの夢を渡り歩いているかもしれないものね。生死のことも推測でしかないもの」
 少しまともなことを口にし、喉を潤した。
「えぇ、今回の事件は時間が過ぎなければ本当に解決したかは分かりませんからね」
 うなずき、お菓子を口にした。
「彼が元気なら嬉しいわぁ。楽しみが一つ増えるもの」
 下唇を舐めながら今回のことを振り返っている。
「勝手に楽しんで下さい。私は手紙を書かなければならないので。あなたはどうするんですか?」
 話も終わったのでさっさと厄介者を追い出したくてたまらない。
「あたしが事件解決を知らせるわけなくてよ。依頼者には報告したからきっとその人がしてくれるわ。みんなに知らせるとか言ってたもの。何かあればあなたが何とかするでしょう」
 依頼者に報告した時のことを思い出していた。事件解決に対して安心を見せていたが、彼女にとって喜びよりも安心が歪んだ顔が見たくてたまらない。願うのは夢を乱す者がまだどこかに潜んでいることばかり。
「……本当にあなたは」
 呆れてため息を洩らした。魔女の考えていることは全てお見通しなので余計に疲れる。
「それじゃ、また来るわね」
 話すことも話して気が済んだ魔女は立ち上がり、機嫌良く部屋を出て行った。
 残されたのはため息を吐く偉大な呪術師だけ。
「こちらもやることをしましょうか」
 偉大な呪術師は事件についての手紙を書き、賢人の都に送った。
 手紙は三日目に無事届くことに。