第5章 安心呼ぶ手紙
 
 
 深い深い緑に囲まれた静かな街。そこにも歪みの者の存在は人々の怯えとなっていた。
 夢故に一抹の不安を抱くだけでも乱されてしまうことになる。犠牲者が静かに増えている頃、一通の手紙がある女性の元に届いた。
 
 眩しいくらい爽やかな朝の光が入り込むとある家の居間。
「ハカセからの手紙だぁ」
 ニコルは待ちに待った手紙に喜びの声を上げた。
 手紙が着く間、不安で不安でまともに眠ることができないでいた。親友や森の声を支えに頑張って今日まで過ごしてきた。当然今日もほぼ眠っていないが、手紙によって疲れは吹っ飛んでしまった。
「……」
 ニコルは椅子に座り、封筒を急いで開けて中から手紙を出して読み始める。
 手紙には自分は無事であること、夢で何が起きたとしても信じて存在を認めないようにすること、認めない限り現実を浸食することはないということニコルが無事であることに安心したことなどが綴られていた。
「……ハカセ」
 自分のことをとても気にかけてくれていることに嬉しくなった。ずっと前からそうだった。何があっても何とかなるといつも穏やかな笑みを絶やさない人で怖いものなんかないんじゃないかと思うほど。その笑顔がどれだけニコルの救いになっているかハカセ自身は知らないだろう。それだけは外見と中身が必ずしも一致するとは限らない世界で唯一確かなこと。
「……信じなければかぁ」
 ハカセの言葉を胸に刻んでいた。
 ニコルの心が安らかになっていた時、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
 最近よく来る客だろう。
「ローかな」
 手紙をテーブルに置いてから玄関に向かった。夢のことを話してから時間があれば必ず様子を見に来てくれている友人。ニコルは睡眠不足で少しふらつきながら急いだ。
 
「大丈夫か?」
 扉を開けてニコルが何か言う前に活発な青年の声が飛び出してきた。ここ最近繰り返している言葉。
「ロー。まぁ、何とか。手紙も来たし」
 予想通りの客に少し元気が戻った声で答えた。
「手紙ってお前が頼りにしてる人の」
 数日前に聞いた話を思い出していた。
「うん。夢は夢だから信じなかったらいいって」
「そっか。よかったな」
 ニコルの様子にほっとした。呪術師として忙しくしている間も親友のことが心配だったので。
「ありがとう。ローも頑張ってね」
「おう。それじゃ、またな」
 自分を心配してくれることに感謝し、忙しい友人を見送った。
 
 まだ不安は残るが、ハカセの言葉を信じて夜の眠りに就く。
 彼女は知らない。事件が三日後には片付いてしまうことを。
 この時は事件がずっと続くと思っていた。彼女だけではなく多くの人達が。