第6章 残る疑問
 
 
 かなりの数の犠牲者がこれまで出たが、これからも出ると誰もが思っていた。眠りに入る度に誰もが不安を抱き、どうにかしようにもどうにもできなかった。
 しかし、物事は常に流れ、止まることがない。今回の事件もまた同じである。
 それはニコルが手紙を受け取った三日後の昼下がりだった。とある呪術師によって事件は終わりを迎えることになった。
 
「ようやく事件解決」
 ハカセは草原に腰を下ろし、静かな湖を眺めながら呟いていた。ある呪術師が事件を解決してから三日後である。
 通りで今回の事件についての立ち話を耳にしたのだ。呪術師の都に住まう魔女と呼ばれる黒い噂が立っている呪術師が歪みの者を消し去ったと。それから犠牲者は出ていないと。
「本当にこれで」
 事件解決が信じられなかった。この先にある何かに続いているように思えてならない。
 そうやって考え事をしていた時、
「ハカセ」
 知った声が背後からして振り向いた。
「ケイ」
 よく知る人物が立っていた。
「事件が解決したと聞きました。どうですか?」
 通りで聞いたことが事実なのかを確認するために訊ねた。
「その通りだと思うよ。いろいろ渡り歩いているけど見かけないから」
 ケイはうなずき、ハカセの隣に腰を下ろした。
 事件が起きている間、ずっと夢を渡り歩いていたが、どこにも彼の姿を見ることはできなかった。
「そうですか」
 うなずくも何か考えるようなことがあるのか少しぼんやりしている。
「でも信じられないなぁ」
 夢の人であるケイは目覚めの世界で起きた出来事を知らないので驚いている。
 あの気狂いの瞳をした者がいなくなったことを。
「呪術師の都に住む呪術師が解決したそうですよ。最も恐れられている呪術師の魔女が消し去ったと」
 ハカセは耳にした事件の顛末を話した。魔女がどのような姿をしているのかは知らないが、噂はよく耳にするので知っているのだ。
「……そっか」
 すごい人がいるんだなと思いながら静かな湖を見つめた。
「本当にこれで終わりならいいのですが」
 ハカセも湖の方に目を向けた。あまりにも事件解決があっさりのような気がしてならない。それはまだ何かあるのではという疑惑を持たせる。一度会ったことがあるのでますます強く思う。
「何か思うことでもあるの?」
 考え事をしているハカセに訊ねた。ケイもまた歪みの者が敗れたとはとても思えなかった。あんなにも人々を苦しめた者があっさりと消えるなんて。
「結局、彼の存在が分からないままですから。あまり、落ち着きません」
 訊ねても答えなかった疑問が一つ残る。歪みの者とは一体何者だったのかと。それが事件解決に影を落としている。
「そうだね。ボクも頑張らなきゃ。夢の人なのに何もできなかったから」
 力強くうなずいた。今まで犠牲になった人々のことを思い出す。もう少し自分が頑張ればきっと犠牲者はもっと少なくなっていたはずだと。
「そんなことはありませんよ。私の知り合いを助けてくれました。本当に感謝しています」
 自分の無力さを思い知っているケイに優しい言葉をかけた。いつもの柔らかい笑みで。ケイがいなければニコルは救われなかった。そのことにとても感謝している。
「ありがとう」
 いつもの笑みに少し心が溶かされ、感謝の笑みを向けた。
「本当にこの世界はいろいろありますね」
 どこまでも広がる青い空を見上げながら呟いた。胸には様々な出来事が去来していた。水の民に天空の城に死んだ街、まだまだ挙げ切れないこともあった。本当に感慨深い。
「うん」
 同じく空を見上げるケイもまた同じ気持ちだった。
 この後、いつものようにたわいのない会話をした後、ケイは去り、ハカセも目覚めの世界に戻って行った。
 
 何もかもすっきりした感じで事件は解決したわけではないが、犠牲者が出なくなっただけでも救いだろう。
 どんな時でも時間は流れ、人々は巻き込まれてしまう。何を考えていようと。今は事件解決に心を安心し、毎日を過ごすだけである。
 
 この日の翌日、ハカセにとても気に掛けられているニコルも呪術師でもある親友の青年によって事件解決を知ることに。
 しばらく後にハカセに来客があることまだ知らない。