| 第1章 空っぽの小瓶
  
  
  外見と中身が必ずしも一致するとは限らない不思議な世界、トキアス。人々は様々な思いを込めて思い人の世界と呼んでいる。
  その世界に存在している青い空に白い家々が建ち並ぶ街、白歴と多くの人が呼ぶ場所。地図ではアリアノールと記される思跡の国に存在する街。
  様々な歴史物が集まり、長い時を越えた物が眠る店や多くの歴史家が住んでいるこの街を訪れたのは上古の探索者であり賢き者大賢者であるローズ。
  彼女は一番の友人には会いに行かず、いつもはただ通り過ぎるだけの店々を見て回った。
  そんな気まぐれが今回の旅の始まりだった。
  
 「……入ってみようかな」
  二階建ての骨董屋を見上げながらローズは呟いた。
  6歳の少女の外見に金髪の巻き毛を二つに分けて薔薇の髪留めで留めている。上品な服装に愛用のスーツケースをしっかりと握っている。
  この街にとても似合っている彼女は目の前の店が気になっていた。
 「……」
  ゆっくりと店の扉を開く。
  彼女は知らない。まさかこの店が知人の歴史家が訪れたことのある店だということは。
  
  店内はとても静かで時でさえ流れていないように感じる。窓から射し込む午後の光が柔らかく店内を照らしている。
 「……」
  ローズはゆっくりと店内を見回している。
  見回す棚という棚には彼女と同じ旅人達がきちんと並べられている。
 「いらっしゃいませ」
  店内に現れたローズに声をかけたのはレジに座る店の主らしき青年。
  主は22歳ぐらいの外見に長い髪を編み込み三つ編みにして先を輪にしている。人の良さそうな目と温厚さのある整った顔立ちをしている。彼は遠い人の国出身だが、国独特の服装ではなく、上着は袖が開いた物で下に長袖を着ている。ズボンを履いておりその上にエプロンに靴を履いている。店は彼の出身もあってか遠い人の国の品が少なくない。
  ローズは気にすることなく店内を見て回っている。
 「……これは」
  ふと気になる物を見つけ、そっと手に取った。
  彼女の手にあるのは何も入っていない透明の小瓶。見た目はどこにでもあるような小瓶だが、なぜだか心が惹きつけられる。
 「……買ってみようかな」
  棚に戻すことができないほど気になったのならすることは一つ。
  自分の物にするだけだ。
  ローズは小瓶を持ってレジに向かった。
 「これをお願いします」
  滞りなく勘定を済ませるも商品をローズには渡さず、青年はレジの背後に広がるいくつもの引き出し付きの棚に向かい、手慣れたように一つの引き出しから一枚の紙を取り出し、
 レジの台に置いて台の引き出しから名刺を取り出して紙と一緒に置いた。
 「品についての情報と名刺です。もし何かありましたらこちらまで」
  青年は商品と一緒に用意した物全てをローズに渡した。
 「ありがとうございます」
  受け取り、名刺に目を向けた。名刺には店名や住所など必要なことが書かれてあった。名前は瑞那というらしい。
 「ここまで提供してくれるお店があるとは思いませんでした」
  名刺から情報にさらりと目を走らせてから正直な感想を口にした。
 「ありがとうございます。当店はお客様が求める品を最高の力で引き合わせるのが仕事だと思っていますので」
  誇らしげにローズに答え、出て行く彼女を見送った。
  
 「まさかあんな店があるなんて」
  ローズは店を出て通りを歩きながらほくほく顔で呟いた。
  彼女がこの街を訪れるのは歴史家の友人に会うためがほとんで様々な店に立ち寄ることはないのであまりこの街について詳しくは知らなかったりする。
 「どうしようかな。少しだけハカセに会いに行こうかな」
  この街に来たらどうしても会いたいと思えてならない。
  自分は旅人なので会いたいと思った時に会わなければ会えない気がする。
 「……会いに行こう」
  買った物を片付けるのも面倒なのかそのまま彼女は友人の家を目指した。
  
  友人の家は他の家と同じように白壁の家。よく通うので道を間違えることはない。
  いつものように訪れ、チャイムを鳴らす。
 「……いないのかな」
  しばらくしても出て来ない。いつもならあの優しい笑顔で迎えてくれるはずなのだが。
 「……やっぱり留守なのかな」
  もう一度鳴らすが、それでも反応がない。
  じっと閉まった扉を残念そうに見つめる。
  様々な所を旅しているが、この家の主と話すことが一番の楽しみだというのに、本当に不運である。
 「……どこかに行ってるのかも。今度、来よう」
  ローズは諦め、買ったばかりの商品の情報を見ながら歩き始めた。
  彼女は新たな旅に心を戻した。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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