第8章 三人の賢人が思うこと
 
            
 呪術師の妖しの都から届いた手紙は大賢者の君達の元に無事届いた。賢人の華の都から若き死人使いが去って一週間と五日目のことであった。
 
「キャッツのことは何とかなったみたいでよかったよ。でも、キャッツが犯人だってこと二人しか知らないみたいだよ。話していないみたいだし聞かれていないみたい」
 ほっとしたように君は言った。テーブルには読み終わった手紙が置かれてあった。
「そうなのか。まぁ、本盗難もあそこの都にとっては大したことじゃないだろうし、呪いも薬もありふれたものだから気がつかないだろうな。二人共表に出るような感じじゃないし、黙っていて大丈夫ならその方がいい。余計な動揺が増えるだけだし。事件解決で良かった。心配でもオレ達じゃ都の中に入れなかったからな」
「難しい質問だねぇ。でも本当にいろんなことがあっちでもこっちでもあるよね」
 手紙を読み終わった焔や緑樹はそれぞれの感想を口にした。
「そうだよなぁ。死神とやり合ったばっかだしな」
 緑樹の言葉にため息を洩らした。呪術師達に本の解呪の成功を知らせてからしばらくして遠い人の国で死人達を貶めるようなことをしでかしたとんでもない人物がこの賢人達が住まう都に現れて大変なことになっていた。緑樹が以前思い出したくないと言っていたのは死神という人物がからんだ事件のことである。
「これからどうなるんだろうね。ねぇ、大賢者の君」
 大変なことを経験したわりにはあまりに呑気な口調でお菓子をほおばっている。
「さぁ、でも大変なことにはなるよ」
 君ものんびりと答え、喉を潤した。
 ただ一人真剣なのは意外にも焔だった。
「奴の言っているこの世界がどんなものかとか形のないことだよなぁ」
 いつものちゃらちゃらした彼ではなく大賢者の顔をしていた。
「そうだね。この世界は見えない何かで成り立ってる。僕が二人に出会ったことは偶然じゃなくて必然であの呪術師達とも会うべくして会った」
 うなずき、手に持っていたカップを置き、感慨深く遠くなった日々を思い出していた。
「でも僕はまだ会ってないけどね。会ってみたいなぁ」
 呪術師達のことになると少しがっかりしたようにぼやき、お菓子を口に入れた。異国からやって来た彼でもあの二人の存在はとても興味を引くものである。
「近いうちに会えるよ」
 気休めではなく、本当にそんな気がして思わず言った。
「だといいなぁ。この世界がどういうものか知りたいととんでもないことをしようなんて面白いね。きっと僕達はそれに巻き込まれてしまうだろうなぁ」
 呑気なようで考えることは考えているらしく焔の話に加わった。
「お前は呑気だな。本当にこの世界に存在しているのが嫌になるぜ」
 真剣な顔が崩れ、いつもの彼に戻った。言葉と裏腹に結構この世界を楽しんでいたりする。
「まぁ、何事も気楽が一番だよ。求めるよりも求めずに今あることに感謝するのが一番だよ」
 探求者である賢人としてはあるまじき言葉を口にし、のんびりとお菓子を食べた。
「お前らしいな」
 焔は息を吐き、一番の知識持ちに笑った。
「まぁ、とにかくどれも無事だったからよかったよ」
 君が焔の言葉に控え目な言葉を口にするよりも先に緑樹が呑気に言った。
「それが一番だよ」
 君も笑ってお菓子を食べた。
 それから三人はいつものようにたわいのない話をし、友人と過ごす大切な時を過ごした。
 
 いろんなことがあれど時間は過ぎ、来るべきものはやって来る。それは変えようのない事実だが、それに抱く気持ちは変えることができる。今過ごせるこの時は何よりも大切なことである。明日というものが必ず来るとはかぎらないのだから。