第1章 秘石の鍵
青い海と白い屋根の家。美しい対比を見せる場所、白歴。そこは歴史家が多く住んでいる地である。他の場所では叡智の民や死人使いの騒ぎが起きたというのに変わり映えのない風景と時間である。善し悪しはともかくとして。
「今日もいい天気で」
朝の空を見上げながら街を歩く子供がいた。
6歳ぐらいの外見にマゼンタのおだんご。右目にはブリッジ式のモノクル(片眼鏡)をし、ゆったりとした服装をしている。分からないのは性別だけで知る者は歴史の大家とかハカセと呼ぶ。
「今日はあそこにでも行ってみようか」
ハカセはとある場所に向かった。
向かった先は二階建ての骨董屋だった。
そこは新しめの店で主は遠い人の国出身である。
ハカセは扉を開けた。扉に付いていた鈴がカラカラと鳴る。
「いらっしゃいませ」
明るい声が店内に響いた。
22歳ぐらいの青年がレジにいた。彼がここの主である。
長い髪を編み込み三つ編みにして先を輪にしている。人の良さそうな目をしていて整った顔立ちをしている。温厚そうな感じである。服装は島国特有の物ではなく、上着は袖が開いた物で下に長袖を着てズボンと靴を履いている。仕事人らしくエプロンをしている。
ハカセは近くの棚から順に眺めていった。店内はそれほど広くはないがなかなか品が多い。ハカセはふと目に留め、何かを手に取った。
「……鍵」
手にあるのは何の飾りもない無骨な鍵である。しばらく考えていたが、店長に訊ねた方が早いと考え、レジの方に行った。
「この鍵はどこの物ですか?」
「これは秘石を素材としている鍵でこの国にある名前を与えられなかった遺跡の扉の鍵らしいんですが、詳細は分かっていません」
すぐに答えるも言葉はすぐに濁ってしまった。それでもハカセは気分を害した様子はなく、ますます興味を抱いた。
「そうですか。……これをお願いします」
ハカセは迷うことなく鍵を買うことにした。
「ありがとうございます」
主はレジを打ち、勘定をした。値段はそれほど高くはなかった。
「……これがその鍵の情報です。もし何かありましたらこちらまで」
主はレジの背後にある大きな引き出し棚から一枚の紙を取り出し台に置き、台の引き出しから名刺を取り出した。名刺には店の名前と住所そして主、瑞那の名前が書かれてあった。商品と一緒に情報を紙袋に入れて名刺を渡した。
「何度かお世話になったことがありますが、本当にいい品ばかりですね」
紙袋と名刺を受け取り、店について一言口にした。これまでにも様々な店に立ち寄ったことはあるが、何度も訪れているのはこの店ぐらいである。水の民の美しい指輪を手に入れてからの付き合いである。
「ご贔屓ありがとうございます。またお願いします」
瑞那の方もよく知っている。外見からして特徴がある上にそれほど来客が多いわけではないのでよく覚えているが、立場上あまり会話らしい会話はしたことがない。
「はい。またいい品をお願いします」
にっこりと満足と期待の言葉をかけてから店を出て行った。
「ありがとうございました」
店の主として嬉しい言葉を頂いた彼は満足な気分で客を見送った。これからも精進しなければならないと気合いが入る。
店を出たハカセは自分の屋敷に戻るべく道を歩いていた。ハカセは世界の中心を目指していた時のローズが話していたことを思い出していた。彼女が扉の先にとても興味を抱いていたこと。まさか、彼女よりも自分が先にその答えを知る機会を得るとは思ってもいなかった。
ハカセは自宅に戻るなり急いで準備を整えて翌日の早朝出発した。
まさか旅先で予想外の人物に遭遇するとは思ってもいなかった。
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