第1章 青の記憶
 
 
 何かが起こるきっかけは身近なところに転がっているもの。
 それは誰もが一緒であった。ある歴史の大家も
 その日は、いつものように朝食後の散歩をしていた。
 いつもと同じように時が過ぎ終わるはずだった。
 
 海に面した歴史家の街、白歴の穏やかな一日を海辺の散歩に使っている者がいた。
「今日はいい日になりそうだ」
 広がる青い海を見つめ、呟く子供。6歳ぐらいの外見にマゼンタ色のおだんご、右目にはブリッジ式のモノクル(片眼鏡)をしている。服装はゆったりとした物を着ている。賢き者の目をしているが、この思い人の世界の常なのか性別は分からない。
 ふと、子供の背後から猫のようなキンキン響く声がした。
「ハカセ!!」
 名前を呼ばれた子供はゆっくりと振り返る。そこにいたのはハカセより一つ下の外見をした小柄な子供だった。薄い金髪をおだんごにして布で包み、結んでいる布が垂れ下がっている。格好は身軽で露出部分が多い靴を履いている。まるで猫や悪戯っ子のような色の薄い目がハカセを見据えていた。
「…キッド、何か用ですか?」
 じっと少年の猫目を見つめて訊ねる。
「うん。これをハカセにあげようと思ってさ」
 肩にかけている鞄から青色のカバーの厚さの薄い本を一冊取り出した。
 ハカセはそれを受け取り、ページをめくっていく。
「それ、ずっと昔の本でね。ちょっとした物語だよ」
 キッドはキャラキャラ笑いながら言う。彼は歴史を歩く者と呼ばれている。
 その理由は様々な理由で表舞台から消えた本を探し出し、手に入れるからだ。それは多くの探求者の手助けとなっているが、入手法は謎である。
 ハカセは青表紙に記されている白文字の古代語を見て、
…青の記憶ですか。…シグルス・マーソン、聞いたことがありませんね」
 と呟く。
「是非、読んでみてよ」
「そうします。感謝します」
 笑みを浮かべながらキッドの言葉にうなずいた。
「うん、どういたしまして。それじゃ、僕はもう行くよ。またね」
 ハカセが挨拶をする暇を与えず、キッドは風のように行ってしまった。
…本当に忙しいなぁ」
 一人残されたハカセはキッドが消えた方向を見て呟いた。
「さて、散歩はここまでにして帰ろうか」
 そう言い、屋敷へ戻っていく。
 この日の午後は、読書で一日を過ごした。
 この時、この本が新たな出会いと新たな物語を運んで来るとは思いもしなかった。
 『青の記憶』は本棚に収められた。